<事例1>音信不通の相続人との遺産分割協議
地元にお住いのAさんが、母が亡くなったので母名義の自宅の名義変更がしたいとのご相談に来られました。
詳しくお話を伺うと、Aさんには数年前に亡くなった兄がおり、その亡くなった兄には子どものBさんがいました。兄は、Bさんがまだ小さいときに離婚しており、その関係からAさんはBさんとは長年音信不通でした。しかし、母の相続を進めるには、Aさんのほか、代襲相続により兄の子どもであるBさんが相続人となりますので、全員で遺産分割協議をしなくてはなりません。
ほとんど接点のないBさんとどのように遺産分割協議を進めていけばよいか分からず、Aさんはお困りのご様子でした。
当事務所の対応
このケースでは、音信不通の相続人とコンタクトを取り、どのように相続手続きにご協力いただくか、ということが問題でした。ですが、長く音信不通だった親族から突然連絡がきたらどうでしょうか。普通であればとても驚くでしょうし、不審にも感じることだろうと思います。しかもそれが相続というとてもデリケートな内容です。慎重に対応する必要があります。
このような場合、当事務所では、まずは相手にお手紙を出すことをお勧めしています。被相続人が亡くなったこと、あなたがその相続人であること、不動産の名義を変更するために遺産分割協議に協力してほしいことなどを、相手の心情に十分配慮しながら文章を検討します。
ここでは、「相手の心情に十分配慮しながら」という点が非常に重要です。先ほども述べたとおり、このような連絡をもらって相手は不信感でいっぱいのはずです。その不信感を少しでも取り除き、手続きに協力してもらうためには、「誠実」かつ「正直」な姿勢を見せることが大切だと思います。相手がどのような環境にいるだろうか、被相続人もしくはその親族に対しどのような感情を持っているのかなど、様々な要素を検討し想像力を働かせます。
特にこのケースでは、被相続人だけでなく、Aさんの兄が亡くなっていることをBさんに伝える必要があります。Bさんは自分の父親が数年前に亡くなっていることをこの手紙で知るわけです。また、Bさんが小さい頃に両親が離婚しているということですので、Bさんは幼くして父親のいない生活を強いられてきたわけですから、父親にマイナスの感情を抱いていても不思議ではありません。
このケースでは、Aさんの強い希望により、当事務所から相手に手紙を出しました。その手紙の中で、Bさんの父親が亡くなった事実を、当時の父親の状況や亡くなったときの様子、Bさんの連絡先が分からずにすぐに連絡できずAさんはとても申し訳なく思っていることなどを詳細に説明しました。また、被相続人の財産状況や、Bさんには相続人として法律上の相続分が認められていること、Aさんとしては現在住んでいる自宅は相続させてほしいと考えているが、Bさんが希望されるのであれば法定相続分相当をお支払する用意があることなど、Aさんにとっては不利なことも正直にすべて説明しました。
その結果、Bさんは自身の権利を主張されることなく遺産分割協議に応じていただき、自宅の名義をAさんに変更することができました。